僕の話

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コーヒーが運ばれてきた。 男は二袋の砂糖とミルクを入れてスプーンでかき混ぜた。太るわけだ。 僕は煙草を消して男に言った。 「本当に話してくれるんでしょうね。何故僕をつけまわしてたか」  言い方がきつすぎたのか、男は僕をなだめるように言った。 「そんな怖い顔しないで、ねえ。話しますよ、話しますって。私もね、気づかれてるんじゃないかと思ってたんですよ。でも、びっくりしたな。あなたが近づいてきた時は…」 「僕がやっていることが変だってことは、自分でも分かっています。でも、その僕をつけまわすあなただって同じくらい変じゃないですか。僕はその理由を知りたいだけなんです」 「だから、まずあなたの話を聞いてから、そうしたら話しますよ。すぐ済む話なら立ち話でもよかったんですよ。なぜ赤い靴を履いている女の子に声をかけていたのか、一分で話してくれれば、私も何故あなたを見ていたのか一分で話しましたよ。でも、長くなるって言うから…。それでここに入ったんでしょ」 「そうですけど…、本当に僕の話を聞きたいんですか?途中で逃げようなんていう魂胆じゃないでしょうね」 「疑り深いなー。あなたが長い話になるなんていうから、それで聞きたくなっただけですよ。面白そうだなーって、単純な興味ですよ」 「本当ですか?でも僕の話は長くなりますから、やっぱりあなたから…」 「それはだめです。話が違います。お願いしますよ、もう店に入ったんだし、食事も頼んじゃったんですから」  スーパーのビニール袋が風に舞って、ビルの向こうに消えていった。
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