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今まで優秀な人生を送り、怒られ慣れてない私は、何が悪かったのかも考えられず、ふらふらとした足つきで、空気のように勝手にその部屋から消えた。
「どこほっつき歩いてんだよ!」
ぼやっと歩いていたので、スーツの男性とぶつかって気づいた。
「あ、会社出てきちゃった…」
なんか思考回路がおかしいみたい…何も思い浮かばない。
「これから…どうしよう…」
車のクラクションの音が間延びして聞こえた。
「優里!!」
その時、女性の呼ぶ声が聞こえた。
「美春?」
走って追いかけてきてくれたのか、美春は息を切らして、こちらに向かってきた。
「ごめんね優里、フォロー出来なくて…」
「うんう。まさか、あんなこと言われるなんて思ってもみなくて。ぶっちゃけ男にあんなに怒鳴られるの初めてで…怖くなっちゃった」
「アサト、すごい厳しいところもあるけどさ、バンドのこと一番に考えていて、誰よりも努力してる人なんだよね。だから、あんなきついこというけど、許してあげてね」
「私だって…それなりに頑張ってんのに…美春たち大変だね?よく5年もやってるよ。こんなにめんどくさいなら辞めようかな…ぶっちゃけ私就活うまくいかないから、ここきただけだし…」
美春は不思議そうに首をかしげて、私の顔を見つめた。
「高校の時と変わったね?あのときの優里は、誰よりも負けず嫌いで、どんな人でも最終的にはギャフンと言い負かせてたじゃん」
「そりゃあ、今も確かに負けず嫌いだし、世界の中心は私中心でまわっていると思っているよ」
「じゃあ、このまま、アサトにあんな風に言われたままで良いの?」
いじけて、ふくれっつらの私にも、美春はいつも優しくやる気を出す言葉をくれる。
「それはそうだけどさ…」
「優里の歌は本当にすごいよ。きっと私たちのバンドは変わる。世の中だって、変えられるかもしれない」
世界の中心は私中心で回っている思っている私には、『世の中』とか大きな野望めいた言葉にとても弱い。
「世の中を変えられる?」
苦労の「く」の字もほとんど知らないから、そんなこと私ならすぐにできるんじゃないかと、気持ちが前向きに変わってきた。
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