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うだるような熱さは森の中とて変わらない。
木陰と山から吹き下ろす風のおかげで、幾分かマシと言うだけだ。
ただし、そのマシな部分を求めて、多くの生物がそこへ集まる。
そうなると、もはや場所の取り合いになるだけだった。
そんなとき水辺は、まさに楽園。
そこを目指すものも多いはず……
まさに狙い目。
この時期の川辺ほど危険な所も多くはない。
”シャアアァ!”
黒い皮に覆われた一匹の生物が川の中から勢いよく飛び出し、そして再び水中へ潜っていった。
盛大に水しぶきが飛び散り、辺り一帯をぬらしていく。
水中では、何か物々しくいくつもの影がうごめき、水面はざわついている。
”シャアアガガガルウウッ!”
再び、同じ影が水中からジャンプし、辺りに水をまき散らしながら潜っていった。
そのおりに鋭く銀色の軌跡も見えた。
鋭い爪だった。
黒い影はまさしく魔物。
それが水の中で暴れているようにしか見えない。
動きから水の中の動きに特化しているやつだろう。
巻き込まれれば、人間などひとたまりもないだろう。
そんななか……
「じゃ、いっくぞ~!」
清々しいばかりの晴れやかな声と共に一つの影が宙へ踊った。
その影は空中で2回転ほど宙返りをしながら、その渦巻く水面へと真っ直ぐに落ちていった。
次の瞬間、影は見事な水柱を作り、そのまま水中に没していく。
その様子を近くの木陰で見ていた彼は深くため息をついて見ていた。
“グル?”
そんな彼の様子を日光が苦手な黒い物体が上目遣いで見てきた。
「ん? あぁ、この暑いので元気だなぁって思ってね」
本を片手に汗でずり落ちだしたメガネを押し上げていく。
「お前も、暑いのは苦手だもんな」
”ルル……”
肯定するかのようにそれはため息交じりに鳴く。
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