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彼女は鍋の底に取り付けた魔具のスイッチとなる核に触れた。
ヒュゥゥゥ
という風音が鳴り、鍋の周りを包む冷気が止まった。
「まだまだ、無駄な箇所が多いから、改良が必要ねぇ」
困ったような口調とは裏腹に彼女の表情は興奮しているのか少しだけ上気していた。
「もどったぞ」
「あら、お帰りなさい」
背後のドアが開き夫であるバレンが姿を現した。
「どうしたんだい? ずいぶんとご機嫌じゃないか」
止まらない汗を手ぬぐいで拭きながら、ドカッと椅子に座った。
そして、その視線が彼女の指先……見覚えの無い魔具へと注がれた。
「実験が成功したのか?」
興味深そうにのぞき見ようとする。
「ふふっ、そうなの。これでいつでも冷たくておいしいものが飲めるかもしれないわ」
「ものを冷やす魔具ってことか?」
そりゃすごい、とバレンも手放しに喜んだ。
「村のほうはどうなの?」
「ん? あぁ、問題ないさ。今年もいい実りになりそうだ」
そう満足げに語る。
畑は順調と言うことなのだろう。
この2年で、村の様子はほとんど変わっていなかった。
一部の者達は、あの事件の時の坑道が使えればもっと豊かに出来たのにと、今でも悔やんでいるようだった。
2年前の事件以降、鉱脈があると分かっているが坑道に凶悪なスライムが巣くっていると言うことで封印されたのだ。入り口は塞がれ、その近くには監視する魔具まで設置されていた。
「そういえば、最近お客さんが多くなっていないか?」
「え? ええ、そうね……」
クラティナの魔具技師という腕を見込んで、今では多くの客が村を訪れるようになった。
彼らがこの村にやってきたときは、かわいい双子が彼女のお腹の中にいた。そのため、子育てが一段落済むまでは、ゆっくりと家事にのみ専念していたのだ。しかし、二人の手も段々とかからなくなり、時間が余ったのだ。そこで、昔から得意だった魔具の修理とかを請け負うようになっていった。
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