第1章

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ガァァァアアアアアッ!!! 再び発せられた咆哮は大地を揺るがすかのようなものであったが、まるで何かを警戒するような、そう、何かに怯え恐怖しているような響きを孕んでいた。 よく考えてみれば、おかしな話である。 そもそも、食物連鎖の上に行けば行くほど、吼えるという行為は減っていく。交配の為の求愛等を除けば、吼えるという行為自体が持つ意味というのは、威嚇だろう。 自分と同等かそれに近いもの、争えば自らも傷を負ってしまう可能性の高い相手と、戦わずにやり過ごす手段。 もしくは、自分より強い相手に、どちらがより強いかを錯覚させる為か、相手より弱い自分を鼓舞する為なのだ。 この世界で最も頑強な鱗を持ち、小さな集落ならものの数分で焼き尽くすブレスを吐くドラゴンが。その牙は骨ごと肉を引き千切り、全ての生き物を蹂躙する爪を持つドラゴンが。 一体、何に対して吼えるというのだろうか。
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