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屋敷には、ほんの少し禿げている方がいます。お嬢様はその方によく意地悪をされますが、嫌いだからしているわけではございません。むしろ、なついています。
「禿げ執事ー?」
「はい、なんでしょうか」
お嬢様の失礼な呼びかけに、庭のテーブルにお茶会の準備をする執事が笑顔で振り返ります。
ちらりと見えた後頭部の光が眩しいです。若禿げでもなく、ストレスでもなく、一部が禿げた執事は朗らかな笑顔が似合います。
執事がお嬢様の呼び名を気にしないのは、きっとその言葉に隠された意味を知っていたからでしょう。わたくしは何も気付いていませんでした。まだまだ未熟者です。
わたくしはお嬢様が執事に向ける名称が好きではありませんでした。ですが、お嬢様が口にする「禿げ」には愛情があるのだとその時になって気付いたのです。
――あなたの将来できる無様な禿げと違うの。素敵でしょう? 勝手に真似して呼ばないでちょうだい。
何も知らない他家の馬鹿ガ――けほん、お坊っちゃまが彼を貶めた時にはしっかり庇われていました。腕組みされるお嬢様は愛らしかったです。
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