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「……」
竹藪の中を進み、たどり着いた小さな日本風の建物をまじまじと見た。
なんだろ、これ。
秘密基地とかにしたら絶対楽しそう……なんていかにも小学生らしい発想をしつつ、戸を開けるか開けまいか考える。
すると、カラカラ……と引き戸の扉が目の前で開かれてしまった。
小屋から出てきたのは、1人の男性。
洒落っ気のあるジーンズにジャケットと若者らしい格好の美青年であった。
「……えーっと、キミは?」
それまでポカンと口を開けていた男性が沈黙を破る。声を掛けられ、やっと我に返る私。
「ええと、私は闇山紅亜といいます。本日はこちらの本家にお招きされまして……」
ガッチガチに緊張した状態でそこまで話すと、男性はそんな私を見かねて、
「あ、分かったよ。親戚の子か。闇山って言えば分家だよね」
「そ、そうです」
漆黒の髪が印象的なその人は、ニコリと笑うと自己紹介をしてきた。
「僕は夜深山鋼夜(よみやまこうや)。よろしく、クレアちゃん」
鋼夜さんかぁ……なんか物腰柔らかで格好いい感じの人だなあ。
……ん?
鋼夜さんの視線がなかなか私から外れないことにちょっと違和感を覚える。
「……そっか、キミが……」
「?」
意味深な言葉を理解出来ず、私は首を傾げるしかなかった。
☆
「あの、ここって鋼夜さんの秘密基地なんですか!?」
__目の前の少女は、キラキラした瞳でそんなことを言い出す。ワクワクを隠せない!って風に。
秘密基地か……どっちかと言うと隠れ家みたいなものかな。まあ、どっちにしろ、この小屋も、もうじき僕以外の誰かに渡るんだけど。
「うん、そうだよ。クレアちゃん、興味ある?」
「え、うーんと……ちょっと」
うずうずしている。よほど中が見たいらしい。
じゃあ見せてあげようかな。小さな主候補のクレアちゃんにだけ、特別に。
「いいよ、ちょっと散らかってるけど。特別だよ、他の人には内緒にしておいてね」
クレアちゃんは口に両手をあてて、こくこくと首を縦に振った。
ははは、可愛い子だな。
僕の心の声に応じるように、胸ポケットにさしてあった万年筆の金色に装飾されたクリップ部分が太陽の光に反射して煌めいた。
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