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苦労はそれなりにしたが、薔薇の迷路の中央──ここが実質的なゴールらしい──の木にたどり着く。
「はあ……」
呼吸を整えてふと木の上を見上げると、枝先に上質な毛並みのペルシャ猫の姿が。
わー、あんな所に登って……上品そうに見えて意外とヤンチャな猫みたいだな。
と、そんな呑気な感想を述べていた私のもとに第3者がやってきた。
その子は、私よりちょっとだけ年下らしい女の子だった。
焦げ茶色のボブを揺らし、走ってくる。
綺麗にぱっつんに整えられた前髪の下は、ぱっちりとした大きくて優しげな二重。
可愛い子だった。すべての子役が嫉妬しちゃうんじゃないかってくらいに。
白昼の柔らかな風に吹かれて……その子と、眼と眼が合う。ばっちりに。
あ、目合った……そう認識した時、私たちはお互いに自己紹介をしあっていた。
「えっと、闇山紅亜です! どうぞよろしく!」
「あ、はい! 私は夜神(よがみ)りえるです。こちらこそよろしくお願いします、紅亜さん!」
ニコ、と微笑むりえるちゃん。
途端にミニサイズのハートの矢が刺さったような気がしてきた。
ど、どうしょう。異常に可愛いぞ、この子。
これが萌えという感情か。ウム。
この笑顔で「お姉ちゃん」とか言われたら間違いなく死ぬな。
って何を言ってるんだろうね私は。
冷静になって自分にツッコミを入れていると、りえるちゃんは深刻そうな面持ちで木の上にいる猫に視線をやった。
「あの子……夜々(やや)さんの愛猫じゃないでしょうか?」
「ヘ?」
夜々ちゃん……? 誰だ、ソレ。
「ねー、りえるちゃん、その夜々ちゃんって誰なの?」
「本家の長女です。今、もっとも次期当主に近いと言われています。ちょうど、紅亜さんと同い年くらいじゃないでしょうか?」
私と同い年? という事は……友達になれるかなあ?
「でもっ……私は絶対認めません!」
突然、つーんと顔を猫から背けたりえるちゃん。どした急に。
「私は、夜々さんがお兄ちゃんの……婚約者だなんて絶対に認めません!」
こ、婚約者ぁ!?
何か私、どう聞き逃せばいいのか分からないワードを耳に入れちゃったんですけど!?
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