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りえるちゃんは両腕を組んで冷静ながらもちょっと怒っているような仕草。
「お兄ちゃんは、わたしのものです!」
りえるちゃん、大好きなお兄ちゃんを婚約者に取られたくないんだね…
私は一人っ子だから理解出来ない感情だなぁ。
「と…とにかく、あの猫はその夜々ちゃんって子の飼い猫なんだね」
とっさに話を変えると、りえるちゃんの機嫌も元に戻った。
どうやら、りえるちゃんにとって婚約者うんぬんの話題はNGらしい。
「ニャー…」
木の上にいるペルシャ猫は、なんとも情けない声で鳴く。
…もしかして、あの猫、木から降りられなくなってる?
「…ねぇりえるちゃん。あの子木から降りられなくなってるんじゃないかな?」
「紅亜さん、実はわたしもそう思ってました…」
…どうしよう?
目線で交わし合った私たちの間にビミョーな空気が流れる。
「…私が助けにいくよ」
溜め息混じりに提案し、木に手をかけた瞬間、りえるちゃんが慌てふためく。
「ま、待ってください!せめて誰か大人の人を呼んで来た方が…!」
「それは私も考えたんだけど…アレ見て」
りえるちゃんは私の指差す歪みきって今にも折れそうな枝先を見て、理解を示した。
「でもやっぱり危険ですよ…」
「大丈夫! 私木登り意外と得意だから」
幹をよじ登り、ヒョイヒョイ上へ上へと上がっていく。
あ、いたいた。やんちゃな猫。
「よーし、今助けるからね~…助ける代わりに攻撃とかして来ないでねー…」
ふしゃぁ──!
攻撃してくんなと言ったのに、精一杯毛を逆立てて威嚇して来やがった。
お前今威嚇出来るような状態じゃないだろ、頼むから黙って大人しくしてろよ。
…みし……みしみし。
ついに枝が音を立てて、きしみ始めた。
あ、ヤベ。
「く、紅亜さん! 危ないッ!」
バキィ──。
枝が折れると同時に、落っこちていく猫目掛けて飛び降り、キャッチした。
──落ちる!
眼下に広がる地面を見て、それ相応の痛みを覚悟し、ギュッと目を瞑った。
その瞬間──ふわっと誰かに抱き抱えられた。
目を開けると、そこには……男の子がいた。
黒曜石のような黒眼にサラサラした清潔感溢れる黒髪。
端正な顔立ちながらも、どことなく儚げさと強かな意志を秘めている男子だった。
「……?」
結果的に助けてもらった形になるが、命の恩人である彼にふと違和感を覚える。
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