1.紅

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妖も邪気も神をも跳ね除ける、白巫女。 数百年に一人か二人しか現れないとまで語られる伝説的な彩巫女である。 時流神社には一般的な神社のお勤めとは別に何千年も与えられている使命があった。 一つは、虹玉(こうぎょく)といってお社の周りに敷き詰められた玉砂利を守ること。 これは一般の人には扱いづらく正しく使用しなければ妖となってしまうためだ。 そしてもう一つは、その虹玉を狙って来る妖を浄化し民の安全を確保すること。 この二つの使命について代々伝わる巻物に記されていた。 そしてその使命を担うのが彩巫女の使命として課されていた。 こういった類の力を持つ者の魂はそれぞれ”彩”を持っているのだ。 そしてその”彩”によって相性の良い神などが決まってくる。 お姉ちゃんの場合は全くの混じりけのない白だった。 この彩を保有する者は本当に僅かしか存在しない。 それ故、お姉ちゃんは重宝された。 これでしばらくは妖も近づけまいと、 これでしばらくは村も安泰だと、 村人はそう信じてやまなかった。 ……はずだった。 お姉ちゃんが舞い終えたと同時に場面が変わる。 そこは神社の境内だった。 滝のような大雨だった。 不吉な予感がした。 「あああああああああ……」 お姉ちゃんの声が狂気に満ちた悲鳴になった。 「どうして……」 その次の瞬間キンと金属のぶつかり合う音が響いた。 そのあとも何度か打ち合う音がする。 しかし、相手は林に紛れて見えない。 と、次の瞬間。 鈍い音がしたかと思うとどさっという音がしてお姉ちゃんが倒れこむ。 そこに10歳ぐらいの小さな少女が駆け寄る。 (行っちゃダメ……) 声に出したいのに、叫べない。 このもどかしさから逃れたかった。 「お姉?お母?どうしたの?風邪引くよ?」 (見るな……) 「お姉……?」 滝のような大雨だった。 それが作った水たまりとは明らかに別種のものが静かに流れている。 「いやあああああああああああああああ……」 それは紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅――― それを最後にわたしは急浮上した。 *** 「……っは…」 何度見てもやはり慣れない。 それどころかお姉ちゃんの最後の言葉が頭について離れない。 寝巻きの浴衣は絞れるんじゃないかというくらいぐっしょりとぬれていた。
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