第1章 泥沼からの反撃

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『お待ちしておりました。どうぞお入りください』 待ち合わせ場所の面談室に到着するや否や。その前で佇んでいたレディキャストの管理官が、俺の顔を確認して入室を促してくる。 『……ご丁寧にありがとうよ』 いかにも堅っ苦しい対応に軽く会釈をする。 『面談相手のイザベラ・ハンチ様はまだお見えになっておりませんので、申し訳ありませんが、しばらく中でお待ちくださいますようお願い致します。ご希望でしたらお飲み物をなどお持ちしますが?如何いたしましょう?』 こっちの身分は囚人だっていうのにまるで普通の客人のような扱いだな。どうにも調子を狂わされちまう。 ただ単に俺がこういった対応に慣れていないだけか? 返事に困った俺は、せっかくのご好意満載のご質問に対して無言という無作法な返しをしてしまった。 あぁ~こりゃイメージ最悪だな。 と思っていたが、本人はそんな俺の考えをよそに、至って問題なさそうな表情を浮かべている。やっぱり調子が狂っちまう。 何だってんだ一体? アークスの奴ってのは色んな意味で妙な奴が多い。 俺の目の前にいるこのレディキャストだってそうだ。アークスの管理官となると、どうにも生真面目な印象がついてしょうがねぇが、こいつはそのイメージを根本から覆しちまう程の奇抜な外見…いや奇抜って言うと悪ぃか?ともかく変わった外見だった。 管理官らしく、清楚で整った赤を主軸としたレディスーツを着ている。ここまではまぁ一般的なイメージを持つ管理官らしい外見だ。 だがそこから上に目を向けると、およそ似つくかわしくない程の童顔に、キャストらしいヘッドパーツ型ヘアーの上にある…耳? どうみてもこりゃ耳だよな? 本人の趣味なのか? まったくもってよくわからん。 『……??どうかしました?…私の顔に何か付いていますか?』 っといけねぇ。つい凝視しちまったみてぇだ。 『いや…なんでもねぇ』 変に勘ぐられないようそそくさと面談室に入る。こんな調子なら一人静かに待っていた方が気が楽だ。あれじゃ気になって仕方ねぇ。 面談室の中は相変わらずの状態といったところか。フォトン障壁の向こう側と手前にフォトンチェアーが置かれているだけ。ざっと見渡しても他には何もありゃしない。
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