一章とかつけるけど短編ですから。

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それだけならまだ許せたのかもしれない。優しく大切なものを扱うように持て成してくれたのは有り難かった。しかし、先程の着信やメールから分かるように、非常に過保護なのである。  いや、過保護を通り越してうざったいと言った方が正しいのかもしれない。遼平に毎日のようにくっつかれ、一時も離れられない竜一の気持ちが今なら分かる気がする。あまりにもしつこいため、何度か家出をしたのだがすぐさまに見つけられてしまった。  あの身長180センチを超える巨体で体をがっちり掴まれてしまえば、帰る気持ちもなくとも家に連れ戻されるのである。  しかし、秋越を一人にしておけば一体どんなねじ曲がった生活を送り始めるか分からない。そんなことを考えさせてくれるのも彼の策略の一部なのかもしれない。そう思うと恐ろしい。  ――でも、家に帰ってきて「おかえり」って言ってくれるのは嬉しい。  家に帰れば母も父もいない、どんなにただいまと呟いても返事は返ってこない。そんな生活に慣れてしまっていた夏姫にとって秋越は家族のように感じている。 「あ、着いちゃった」  秋越の住んでいるマンションの下、夏姫はその高いマンションを見上げた。高そうに見えて実は結構安いらしい。夏姫は駆け足でエレベーターの中に駆け込んだ。
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