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「遼平!」
小さな影は大きく遼平を呼んだ。その声は少々少年のような可愛らしい。水色の混ざった黒髪はオレンジ色の陽に照らされて暖かく見える。寝癖なのか後ろ髪が所々ぴょんぴょんとはねている。
やや明るいオレンジ色の丸い瞳はカーネリアンのようだった。三芳学園の制服を着ている。
彼は高村爽良(たかむらそら)、竜一と遼平の友人であり、三芳学園の生徒会副会長である。
「おう、爽良! 剣吾も居るじゃねぇか」
漸く竜一も遼平に追いつき、遼平と爽良の背中を軽く叩いた。そしてその隣に立つ青年を見つめる。青年は面倒臭そうに頭をかいた。目を細めているのだろうか、彼の長い前髪のせいで表情が窺えない。
爽良とは対照的にくるくると毛先は跳ねて、襟足は少し長めと妙に暗いイメージが漂っている。爽良よりも少し身長が高く、爽良に負けないほど細身だ。
彼は高槻剣吾(たかつきけんご)。竜一の従兄弟であり、同じ三芳学園に通う青年だ。
竜一と遼平を含むこの四人は三芳学園の軽音楽部でバンドを組んでいる。爽良はボーカル、竜一はギター、遼平はベース、剣吾はドラムだ。今日は練習がないため、こうやって竜一も遼平も見回りをしている。
「何……? 木刀振り回してるこわーいお兄さん達が近付いてきた」
「なーにが怖いだ。お前のほうが怖いわ。てか、何で防犯ブザー俺に向けてんだよ」
無表情で剣吾はポケットから防犯ブザーを取り出した。三芳学園でもGPS付き防犯ブザーを持たせており、何かあった時に使用すると風紀委員の携帯電話に通知が来るようになっている。
「ここに不審者が」
「俺は不審者じゃない。こんなところで何してんの?」
防犯ブザーのチェーンを引き抜こうとしていた剣吾を軽く無視をし、竜一は遼平と肩を組んで左右に揺れている爽良を見つめた。剣吾の調子に乗せられるとツッコミが追いつかなくなってしまう。
十六年も一緒に過ごしていればさすがに学習する。嫌でも相手の気持ちが分かってしまう。良いようで悪いようでなんとも言えない気持ちだ。
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