一章とかつけるけど短編ですから。

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 幽霊が見えることは実はとても良い事じゃない。  ――どうしてこうなった!?  夕闇に賑わう人込みの中、爽良は必死に人を避けながら走っていた。時折、後ろに振り返りながら何かから逃げるように走る。体力がないことを五十メートルも走っていないのに息があがることが教えてくれる。  こうなることが分かっていたなら、体力はつけておくべきだった。と言っても爽良の高校生までの成績表を見る限り、体育が得意ではないことが分かる。デスクワーク派なのだ。  そもそも、何故このように逃げるように走っているのか。それは竜一や遼平達と別れた後の事だった。 『そこのお嬢さん、人形はいらないかい?』  商店街で一番古い店と有名な『四方骨董店』の前を通り過ぎようとした時、ふと声を掛けられたのである。もちろん、お嬢さんと呼びかけられた時点で店主に悪意しか感じられなかったが、生憎店の前を通ったのは爽良だけだ。行き慣れている骨董屋であったが今回ばかりは悪寒がしている。  しかし足は勝手に動いてしまう。しまったと思った時には遅かった。窓際に上品に座っていたフランス人形に近付き、その人形に触れてしまったのだ。  さてここで問題。一体爽良はどうなったでしょうか。  一、店内で居眠りをしている店主に声をかけるが店主は起きなかった。  二、窓際に大人しく座っているフランス人形に触れた直後、そのフランス人形が世にも恐ろしい笑みを浮かべ、血で塗られた黒い手で爽良の手に触れた。  三、そのフランス人形に追いかけられている。  ――正解は全部です! 爽良君見事に追いかけられてます!  爽良は後ろに振り返り、宙に浮かぶフランス人形を見つめた。フランス人形は白目を向き血涙を流して爽良の後を追いかけている。一体これは何のホラーゲームなのだろうか。そんな事を考えながら商店街を走っていく。  人で賑わっているのにもかかわらず、誰も宙に浮いているフランス人形の存在には気が付いていない。それもそのはずだ。誰にも見えていないからだ。  ――くそう! コンタクト外すんじゃなかった! ここまで来たら呪うぞ、この眼!  爽良は悲鳴を上げる筋肉に極度の労働をさせつつ、全力疾走である場所へ向った。ある場所とはこの近辺にあるこの市の唯一の神社だ。そこに入ってしまえばもう追いかけられることはない。
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