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カツアゲとは揚げたトンカツを食わせろと言う意味ではないらしい。
「おーおー、可愛いボクちゃん~、ちょーっとお金貸してくんないかな~?」
「ちょーっとだけだからさぁ、ほら二万円。あの三芳学園の生徒ならちょちょっと出せるよね~?」
まさに今、一九九〇年代に取り残されたような服装の不良三人にカツアゲされかけている青年が居た。高そうなスクールバックを胸の前でギュッと抱きしめ、彼は震えるように不良を見つめている。
背後に聳え立つビルの壁が彼の逃げ道を塞いでいて、逃げられずに囲まれる事になってしまったのだ。黒い少々毛先が跳ねている髪を風が揺らす。
その長い前髪からは、幼い少年のあどけなさが表れているように丸く大きな黒い瞳に不良の顔が映っていた。少々黒縁眼鏡がずれているため、不良が今どのような顔をしているか分からない。分からない方がいいのかもしれない。青年はゴクリと息を飲んだ。
彼はこのビルの近くに立っている巷で有名な金持ち学園・三芳学園の生徒である保坂夏姫(ほさかなつき)。夏の姫と書いて夏姫。
母親が絵本作家であるため、名前までメルヘンチックである。いやしかし、今はそれどころではない。
――どうしよう、俺、もしかしてカツアゲされてる……?
普段通りに授業を終え、新作のゲームをゲームセンターへ取りに行く最中だった。突如現れた不良三人に腕を引かれ、人気の少ない路地につれられて現在に至る。確かにゲームの代金を支払うため、財布に二万円入っている。
しかし、これは渡せない。二ヶ月の間、慣れないスーパーのレジ打ちと二リットルのペットボトルが何本も入っている箱を運び、ようやく手にした大金でもある。筋肉痛になりはしなかったが、コンプレックスでもあるこの中性的な顔と体付きのことを、同じ時間に働いていた中年の女性に「かわいい」などと言われ、非常に苛立ちの中で働いてきた。絶対に渡すことはできない。
しかし、まだこの世の中にカツアゲというものがあるとは。彼らの中で盗んだバイクで走り出すあの曲が流行なのだろうか。夏姫はそんなのん気な事を考えながら、彼らを見つめていた。
――って、そんな事思ってる場合じゃなかった。どうしよう、囲まれたら逃げ場がないよ。
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