一章とかつけるけど短編ですから。

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 夏姫はチラチラと横目で逃げ道になりうる突破口を探していた。しかし、不良達は夏姫を取り囲むようにして自分をニヤニヤと見下ろしている。これでは逃げ道がない。  ――突破口さえあればなぁ……。  見た目はここ最近女子にモテると言われている草食系男子である。モテたことなど一度もないが。同年代の青年達よりも身長は一六四センチと低く、細身で筋肉もそれほどついていない。肌も白く顔色も悪いが至って健全男子だ。  しかし、陸上部で「黒い流星」などと呼ばれるほど足は速い。自慢はそれだけだが。黒い流星とは家に一人住んでいると、その家には数千人住んでいるというあの生き物の比喩表現でよく耳にする。そのためそのあだ名は正直嬉しくはない。  とり合えず、どこかに逃げ道さえあれば全力で走り、逃げることが出来る。物事に逃げ腰である自分には随分とお似合いな特技がついたものだ。夏姫は少々自嘲気味に小さく溜息をついた。 「きーてんのかぁ?」 「やーさしくしてるうちに金出せや」 「おら、出せよ、五万」  先程から口を開かなかった夏姫に苛立ちを覚えたのか、優しさを微妙に混ざっていた口調が段々と脅すものへと変わっていた。さり気なく値段も高くなっている。非常に困ったことになった。足は速くも喧嘩は強くない。  しかも大会が近いため、人を殴って大会に出場できなくなるなどあってはいけないことだ。だが困ったことにあちらの要求を呑まなかった場合、どうなるか分かったものではない。どっちにしろ、大会には出場できなくなりそうだ。 「おい、聞けや、ゴルァッ」 「う、うわぁっ!?」  目の前に立っていた不良Aは夏姫の胸倉を掴み軽く持ち上げ、壁に夏姫の身体を押し付けた。強く押されたせいで背骨が硬いビルの壁に当たって痛い。段々と壁に押し付けられる力が強くなり、胸倉を掴む手の甲が間接的に首を押し付けられて息がしにくい。  力を緩めさせようと必死で不良Aの手首を掴もうとするが、息苦しさに手から力が抜けていく。地面に無気力にバックが落ちる。待っていましたと言わんばかりに不良B、不良Cは鞄を手に取る。 「あ、駄目……!」  夏姫が必死にバックに手を伸ばした時だった。
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