一章とかつけるけど短編ですから。

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「オイコラ、カツアゲなら定食屋でやってこいよ」  よく聞き慣れた低い声が路地裏の入り口から聞こえた。夏姫と共に不良三人は声の聞こえた方に目を向ける。立っていたのはグレーのブレザーに青いチェックのズボン、皺一つないYシャツに青い無地のネクタイの青年だった。  暗めのサラサラとした茶髪に少々大きめのぱっちりとしているダークブラウンの瞳。童顔であるがイケてるメンズ、略してイケメンと呼ばれる顔のジャンルに分類されそうな顔つきだ。派手ではないが確かに存在感がある。見慣れた顔に夏姫は目を輝かせた。  彼は高梨竜一(たかなしりゅういち)。夏姫と同学年で三芳学園の風紀委員会委員長である。ちなみに余談だが三芳学園内三大イケメンの一人でもある。 「りゅーいちー、そんな事ばっかり言ってるからデブとか言われんだよ」  竜一の隣、竜一と同じ髪型、同じ顔つきの青年が彼の肩を軽く叩いた。竜一よりはやや高めの身長で目元も細く、彼よりも大人っぽい雰囲気が漂っていた。もちろん、竜一とよく似ているという事は彼もまた、イケメンである。全く同じ服装でまるで双子のようだ。  突然、現れた二人組に不良も眼を丸くして彼らを見つめている。夏姫の胸倉を掴んでいる手の力が少し緩んだ。  彼は高橋遼平(たかはしりょうへい)。竜一の幼馴染みで、同じく三芳学園の風紀委員会の副会長である。竜一に好意を持ちすぎていて髪型や話し方、服装を似せているらしい。こんなにもイケメンであるが残念な事にゲイである。主に竜一の腰や尻を撫で回し、竜一の怒りを買っている。先程もまた、余計な事を言っているようだ。 「だーれが、デブだって? 俺はデブじゃない! ちょっと、ちょっとだけぽっちゃりしてるだけ、だ!」 「えー、うっそだー、ほらだって、ここの肉……」  眉間に皺を寄せ、竜一は遼平のネクタイを引っ張った。そんな事も気にせず、遼平は竜一の腹を軽く抓る。少し厚みのある竜一の腹の肉が、遼平の挟んだ人指し指と親指の隙間から現れた。この肉の厚みは少々とは言えない。  見た目は細身に見える竜一であるが、意外とぽっちゃりしているのかとふと夏姫は考える。いや、そんなことを考えている場合ではない。小さく肩を震わせ、竜一は遼平のネクタイで首を絞めるようにギュッと上に締めた。
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