一章とかつけるけど短編ですから。

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「一キロ体重増えてたから、多分鈍ってるんじゃね?」 「おい、待て。一体どこで知ったんだ、その話」 「内緒」  語尾にハートマークがついてそうだ。遼平は可愛らしくウインクをした。その姿を冷めたように竜一が見つめている。呆れて何も言えないようだ。 「お、お前ら、何てことをしてくれるんだ!? 暴力は反則だぞ!」  不良Cはそう叫びながら二人の前に倒れている不良Bの体を抱き起こした。しかし、暴力は反則と言うが最初に仕掛けてきたのは紛れもなく彼らである。何を言ってるんだろう、夏姫は何とも言えない気持ちになった。 「何してるんだ、お前ら――?!」  そう不良Aが叫んだ時には既に遅かった。遼平が素早く不良Aと夏姫の間に屈んでいる遼平の姿が見えたと同時に夏姫の胸倉を掴んでいた不良Aの腕が離れる。遼平の振り上げた木刀が不良Aの腕に鈍い音をたてて降ろされたのだ。たった一振りの木刀であんなに痛そうな音が響くものなのか。夏姫は地面に尻餅をついて息を整えつつ、そんなことを考えた。  不良Aは木刀が振り下ろされた腕を手で押さえつつ、声を上げた。それもそのはずだ。夏姫からしても今の打撃は痛いと思う。  その声を聞いた不良B、Cは不良Aの方へ振り返った。不良二人が立ち上がり、仲間の元へ戻ろうしたその後ろ。竜一が二人の間に入り、体を一回転させた。一回転すると同時に彼らの脇腹に木刀がめり込む。その動きが夏姫にはスローモーションのように見えた。 「て、てめぇらぁぁぁぁぁぁっ!!」  不良Aの怨念のこもった叫びは、遼平の最後の一振りの風を切る音に消えた。 「あー、久々に楽しめそうかなって思ったけど、何か微妙」 「そう言うなって。別に楽しむために来た訳じゃねぇんだ」  まるで何事もなかったように二人は倒れている不良達の財布の中を見つめた。風紀委員会がカツアゲをしている?   それを疑うように夏姫は二人の姿を見つめた。その視線に気がついたのか遼平は口角を上げて薄い笑みを浮かべる。その笑みに悪寒が体の中を駆け巡った。非常に怖い。 「夏姫―、大丈夫だった?」 「お、俺は大丈夫ですけど……」  チラッと地面に屍のように倒れる不良達に目をやる。その姿に遼平は軽く息を吐いた。 「大丈夫、みねうちだから」 「いや、ピクリとも動きませんけど」 「おっし、こいつらの学生証も取ったし、帰るぞ」
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