一章とかつけるけど短編ですから。

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『君のお母さんから君の面倒を見ることを頼まれた、秋越(あきごし)って言います。宜しくね、夏姫』  淡く薄く笑みを浮かべた彼――秋越はそっと夏姫の頭を大きな手で優しく撫でた。その感触が懐かしいと感じたのを今でも覚えている。  ――ここまでは良かったんだよ、ここまでは。  夏姫は携帯電話の画面を見つめた。着信が十件以上来ている。メールは十三件。どちらも一分ごとに送られてきている。そう、この着信とメールの送り主の正体は秋越である。夏姫は大きくため息をついた。 「またかよ、もう」  母から頼まれた、と秋越に聞いたため、渋々彼の高そうな青い車に乗り彼の自宅にお邪魔することになった。見た目は王子様である秋越であったが、住んでいるのは一四階建てのマンションの十階。彼に連れられ、玄関に入れば出迎えてくれたのは執事でもメイドでもなく、足の踏み場のない汚い部屋だった。  夏姫自身、綺麗好きというのもあるが、小まめに掃除をしている。強盗でも入ったような荒れようの部屋を見て、声を上げず絶句した。秋越本人曰く、片づけをしようとして張り切ったのはいいものの、慣れていないことに部屋は汚くなる一方だったらしい。
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