常夏万歳

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 囲炉裏は田舎の暖房だ。  茹だるような暑さの中、その囲炉裏を囲む村民たちの前でヤカンが鳴いた。  水蒸気が噴き出すせいで、小部屋は灼熱地獄だ。  なぜこんなアホなことになっているのか。  真夏のイベントといえば我慢大会。一億を出すと言うのは村長が毎年、こんなアホなゲームをするんだ。前年度優勝者は、石油王になった。  既に村民がひとり、意識を失い担架で運ばれた。  俺はと言えば、賞金一億を勝ち取るためにヤカンが鳴り響く音を睨みながら夕立のように降り注ぐ汗と自我と闘う。遠くで蝉が鳴き喚いていても、俺の心には届かない。 「あづい…」  小部屋はサウナだ。息苦しい。視界が霞んでいる。村民は俺を交えて八人、いや、途中退場したやつをあわせると九人だった。  明々と燃える炭、その上で煮えたぎるヤカンの水。水蒸気なんて生ぬるい言葉じゃない。あれは熱線だ。温泉ともちがう。高温の煙。着てきたシャツは水に飛び込んだ時と同じ濡れ具合だ。目の保養といえば、右端の娘だけ。あとはじいさん婆さんの枯れた肌が並ぶ。目の前に滝が流れた。汗だ。くそ。負けるか。この夏の闘いて俺は男になるっ。 「あぢい…」  傍らの声は幻覚だ。白熊とペンギンと南極の海に落ちろ俺。  囲炉裏の中心で炭が、跳ねた。常夏に焚かれた囲炉裏に薪をくべて小部屋は更に温度が上がる。  俺は一億を勝ち取る。  そして、そして…………!  宇宙への切符を手にするのだ。
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