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ぴたん、ぴたん、と。
水滴が、前髪から湯へと落ちていく。
広々とした浴槽の中で、僕は膝を抱えていた。正面には、彼がいる。
いのり、と彼は言った。
「こっち見て」
ぴたん。
また、水滴が落ちて波紋を描く。
「怒ってる?」
僕は黙って首を横に振る。
怒ってはいなかった。
「無理やり言わせたのが嫌だった? それか二回目に……」
「も、もういいです……っ」
慌てて制止の言葉を告げると、楽しそうに笑うひとと目が合った。どこまでも、ずるい。
自分だけが、動揺させられている。
昔も、今も。
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