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いいえ、と僕は言った。
「彼女は、いませんから」
困り顔で、足下へと視線を落とす。大抵のひとはそれで許してくれるのだが、彼はそうじゃない。
「本当に? 穂高なら、何もしなくても女子くらい寄ってきたりしない?」
「だったら、よかったんですけど」
「その顔なら、得だよな」
「どうでしょう。……ご年配の方には、よくモテるようですが」
実際、おじいさんやおばあさんには声をかけられやすいが、特筆するほどの利点はないと思う。
なぜ彼が、この手のからかいを僕に向けてくるのかよく分からない。
「……みなさん、揃ったみたいですね」
対応に困っていると、鳴海さんが助け船を出してくれた。
「穂高君、飲み物、まとめて注文しますので。少し、手伝ってもらっていいですか」
「あ、うん」
彼女に感謝しつつ僕は席を離れ、参加者から注文を取り始めた。
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