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「大丈夫ですか?」
高瀬さんが運転する車に乗り込んで、シートベルトをした後ずっと黙ったままで、車窓から過ぎて行く風景を眺めていると、そう声をかけられた。
「知っていたよ」
そうだ。こうなることをどこかで分かっていた。単純に頭とかではなく、もっと根深い部分で、だ。例えるなら本能で、理解していたとでも、いうべきだろうか。
あの時に感じた危険は違った。彼女と柊先輩を引き合わせてはいけないと、警告していたわけではなかった。彼女が早まった行動に出てしまうことを、本能が警告していたのだ。私はあろうことにも、その意味を取り違えていたのだ。彼女を止められなかったのは、間違いなく私の責任だ。
高瀬さんは社員専用の地下駐車場に、いつの間にか納車させて、エンジンを切った後でようやく口を開いた。
「それは今朝の新聞のことですか?」
まるで凍りついてしまうほど、あまりにも冷ややかな言葉が、胸に突き刺さった。先ほどの声とは完全に異なっていた。高瀬さんの発した言葉が、頭の中で何度もしつこいほどに、反芻されて絶え間なく響き続けた。
そこからは、明らかな拒絶が抑えもせずに、溢れ出していたのだ。当然のことだった。柊先輩だけではなく、高瀬さんにも極力は関わらせまいとしていた。仕事内容はほとんど隠し事ばかりをして、何も話してはいなかったのだから。追及されても何も答えない私の態度から、彼はそれを肯定と受け取った。
「朝霞さんが呼ぶ時は、柊さんが先輩で僕はさん付けなのは、なぜですか?」
私が柊さんに先輩を付けて、呼んでいるのに対して、高瀬さんは出会った頃から、さん付けのままだった。新人同士とはいえ私は二十七歳で、高瀬さんは三十歳なので、柊先輩と同様に年上であった。しかし、私は高瀬さんのことを、先輩とは呼べなかった。
それは高瀬さんがいつも、後輩の私に敬語を使っていたからだ。全てが全て高瀬さんに、原因があるわけではない。だが、私が彼を先輩と呼べるようになるには、どうしても敬語をやめてほしかった。
一緒に仕事をしていても、他の捜査官より、必要以上に距離があると感じていたからだ。私の一方的な考えすぎなら、別にそれでもいいのだ。もしそうでないとすれば、柊先輩が口にした通り、高瀬さんとは専属契約できない。
「それは高瀬さんも同じでしょ!」
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