第十八話

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 私は柊の報告書を持って薬局に立ち寄った。綿棒だけなのでそのままレジへ並んだ。無駄に愛想のいい店員にお礼を言われ、私は無言で会釈した。レジ袋を断った私は薬局の外で綿棒を鞄に入れた。  本部に出社するとまず鑑定室に入って、自分の口内細胞を採取した。それを常備されている試験管に入れてコルク栓でふたをした。 「柊先輩、鑑定よろしくお願いします」 「鑑定だけだから助かるよ」 「……え?」  もう遺体が発見できたようだ。だからあのタイミングで柊がここに来たのか。  ―もし煉が同じ目にあったら、また別の捜査官に押しつけて逃げる気か!?―  それにしてもあの言葉はきつかったな。あの時の柊は敵意しか感じなかった。 「柊さんには報告しておいたはずだが、何も聞いていないのか?」 「あ、昨日聞きました」  私は咄嗟にそう誤魔化した。すると柊先輩は喧嘩でもしたのか?と、心配そうに尋ねてきた。確かに殴られはしたが特別派手な喧嘩はしていない。それにどんな結果でも、受け止めて前に進むしかないのだ。  用件が済んで私は舞唄との待ち合わせ場所に向かうことにした。その前に高瀬さんを探さなくてはいけない。そう思いその場を後にしようとした。すると柊先輩は私の腕を掴み、高瀬さんとはもう専属契約したのかと、周囲には届かない小さな声で聞いた。私はなぜ急にそんなことを聞いてくるのか、戸惑いながらも首を横に振って否定した。途端に柊先輩はどこか安心したように溜め息をもらした。一体どういうことなのか。  私の答えを知った柊先輩は、そっと掴んでいた腕をほどいた。そしてすれ違いざまに、そのままでいろと謎の言葉を残して立ち去った。全く理解できなかった。単純に今の私でいればいいというそのままなのか、それとも高瀬さんとは専属契約をしないままでいろ、という意味なのかどちらにも取れた。  ―誰か私に男心を教えてくれないかな?―  気になる発言だが仕事が終わったら、繭子さんにでも聞いてみようと、考えがまとまったところで、私は彼を探して回った。ちょうど医務室から出て来たので、尋ねてみると彼は住み込みとのことだった。
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