第十八話

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 彼女の主張には少し歪みがあるものの、全く理解できない言い分ではなかった。由里さんはいじめによって苦しんでいた。そこから逃れるには転校するのが一番らくだが、新しい環境だと慣れるのに時間を要してしまうため、あまり得策とは言えないのだ。しかしいじめから解放されるために、その相手の命を奪っても犯罪だ。正当化されることはない。それどころか今回の事件のように、新たな事件の火種を生むきっかけを増やすだけだ。 「これは直しておきました。千切れていたのは由里さんが、助けを求めて駆け寄った時ですね?」  私は彼女が持っていた、純金のロケットペンダントを返却した。  雫瀬姉妹の母親は水商売で生計を立てており、姉妹にペアで持たせていたのは客からの貢物だった。炊事洗濯などの生活力は皆無で、家を空けることが多かった。そのためほぼ二人暮らしの状態であった。それが何年も続いたある日、母親はとんでもないことを言い始めた。 「私再婚して鞘歌は連れて行くから」 「冗談じゃないわよ!子育てなんてしていないのに出来るわけがないでしょ?」 「私に口答えする気なの?本当に可愛くない子ね!それに出版社の内定もらったのだから、一人でも十分生きられるわよ」  そうして傍若無人な母親のせいで、彼女は妹と引き離されてしまった。なんてひどい親だ。鞘歌さんにとって、誰かをいじめることが、たった一つのストレス解消の手段だとしたら、私は彼女だけを責めることは出来ないだろう。  チラッと舞唄を見てみると、彼女は全てを打ち明けたことで、すっきりした表情へと変化していた。そして高瀬さんには聞こえないが、私にだけ聞き取れる声で、彼女はある一つのことを宣言した。 「彼が千歳さんに手をかけていたなんて…でも彼は法律以外の方法で裁かれるわ」  どういうことだ?つまり由里さんを殺害した現場には、出向いていたから当然把握していた。しかし他は誰が被害者か全く知らないということだ。それなら殺人の強要はしたが、殺人そのものには加担していないということか?いまいち状況がつかめない。  だが彼女は阪口を一体どうやって、法律以外の方法で裁くというのだろう。この時私はすでに別の計画が進んでいたことを知らなかった。
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