第十八話

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「それにしても驚いたね。荻原麗奈(おぎはられいな)、児玉優香莉(こだまゆかり)、智近千歳、本堂美佐(ほんどうみさ)、高木真理(たかぎまり)さらに斉藤由里――六人目の被害者がいたとは盲点だな」  そうだ。全てはここから始まった。五人とも中学生で一人目と三人目の被害者の遺体が、すぐには見つからず仕事の依頼が来たのだ。結局その差は何なのかわからないままだ。 「朝霞君…顔が怖いけど何かあった?」 「いいえ」  私たち遺体捜査官は、遺体の捜索と状況を捜査するだけで、事件捜査は専門外だ。あまり深く考え込まないほうがいいだろう。 「とにかく高瀬君と朝霞君お疲れ様」  捜査が終わってもすっきりとはしないが、ひとまずは一件落着だ。今日も無事に怪我をすることなく、仕事を終えられたと思うと、強烈な疲労感に襲われた。私は一刻も早く家に帰って、体を休めようと本部を出たところで、高瀬さんに呼び止められた。 「すいません朝霞さん。今朝柊さんと話しているところを見かけて、もう専属契約をしたのかと……」  え、また?今朝は柊さんで今度は高瀬さんだ。私の契約一つがそれほど気になるのだろうか。正直に言うと仕事ができれば何でもよくて、本心では専属契約者とかどうでもよかった。それぐらいには低いウエイトしかしめていない。ただ柊さんに聞かれて、少し意識し始めたばかりであった。 「…んー、興味ない。それに今はもう少しふらついていたいかな」  それは本当に率直な気持ちだった。特定の相手と長くかかわるのは困難なことだった。誰にも縛り付けられないで自由でいたかった。それだけだ。契約者を持ちたくない理由が明確にあるわけではない。  高瀬さんの表情からは困惑が見て取れて、あまりいい答えではなかったようだ。しかしそれ以上に掘り下げるような、まねはしなかったのでホッとした。  高瀬さんとは本部前で別れて私は家に帰った。そして今日一日ずっと気になっていた、柊先輩の“そのままでいろ”発言に関して、繭子さんに聞いてみた。すると意外な答えが返ってきた。 「あら、それは素敵な口説き文句ね」 「お前!何さらっと口説かれている?」 「……は?」  意味が分からない。口説きって…どの辺が?そんな要素かけらも感じられない。繭子さんは高瀬さんと専属契約するなという、後者で断言していいと主張した。果たして本当にそう……なのだろうか。
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