第十九話

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高瀬目線・前半  見慣れた天井が見えて、嗅ぎ慣れた匂いのする医務室に、いつも通りの朝が来た。ただいつもと違うのはこの慌ただしさだ。 「おい―――起きろ、高瀬!」  焦った表情を浮かべた同僚が震える手に、皺くちゃになった新聞を持って僕はたたき起こされた。 「…東雲(しののめ)か?」  まだ頭がぼんやりしていたが、目の前に飛び込んできた記事で、僕は頭の中に一面を霧で覆っていた光景が、一瞬で消え失せて見通しが良くなる感覚がした。同僚の東雲が差し出した新聞には、衝撃的な文字が躍っていた。 「これは……」 「お前この事件の捜査をしていただろ。大丈夫なのか?」  僕は読み終えた新聞を東雲に押しつけると、寝癖が付いたままの頭で医務室を飛び出した。心配した東雲が何か叫んだが、僕にその言葉が届くことはなかった。  僕の行き先は決まっていた。今すぐにでも一目会って確かめたかった。他力本願にも程があるが、彼女なら何かを知っているはずだ。 朝霞目線・後半 「犯罪者の男が刑務所で爆死とか警察は何をしていたのか……」  柊が呼んでいた新聞を机に放り投げて、いつもの定位置でモーニングコーヒーをすすった。  私が何気なくそちらに目をやり新聞を手に取ると、その場で体が硬直した。記事には彼宛で刑務所に届いた手紙から、爆発物が見つかった。爆発規模は狭いが一人の人間を殺害するには十分で、金属探知機に引っかかりにくいうえ、痕跡をたどるのが難しい小型爆弾だった。  科学捜査官は約五、六人のチームで活動しているのだが、これらの捜査情報をつかむのに、全員で捜査して二週間と五日と、一か月近くもかかっていた。  負傷者は刑務所内を巡回して軽傷を負った警察官、そして手紙を開封して爆死した犯罪者だ。彼の名前は――― 「阪口…雅耶?」  あの強姦死体遺棄事件の犯人だった。ありえない。彼女に会ってすぐ阪口が殺された?そんな偶然が都合よく転がっているはずがなかった。寝起きでまだ回らない頭を強引に回すと、ある言葉が脳裏に浮かんだ。  ―でも彼は法律以外の方法で裁かれるわ―  裁くってこういうことだったの!?  由里さんの件ではただ傍観していただけだ。しかし彼女はついに罪を犯してしまったのだ。私はまた彼女を救えなかった。いやそれ以下だ。救えなかったどころか踏み留まらせることさえできなかった。
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