第十九話

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 私がもっと彼女と向き合っていたら、もっと優しく話を聞いていたら、あの段階で計画を阻止できたはずだ。私の至らなさと弱さが彼女を、本当の意味で加害者にしてしまったのだ。 「しーちゃん……ごめんね」  柊は彼女の名前で驚愕したが、泣いている私の頭をしばらく撫で続けた。私が落ち着くまで柊はずっとそうしていた。さすがに心配になったらしく柊が、今日は休んだ方がいいのではないかと提案された。確かにこんな状態で外に出ても、普段通り職務をこなせるとは思えなかった。しかし休んで逃げるのは不本意だった。  私は“大丈夫だから”と一言だけ漏らして支度した。ウエストポーチに携帯電話、長財布といった貴重品を入れて、エコバッグとして使っている鞄を、小さく折りたたんで隙間に収納した。それを腰に巻き付けて取り付けた。カチッという音が静かな部屋に響いて、私は深呼吸で気持ちを落ち着かせた。それでも柊は玄関までついてきた。きっとあまりにもその声が弱々しかったからだろう。  おそらく柊先輩から聞き出したのか、家を出ると見知らぬ車から高瀬さんが顔を出した。  私の泣きはらした目元を見て、彼は駆け寄るのを躊躇したが、それはほんの一瞬の出来事だった。彼は意を決したようにまっすぐな目で、私を捉えた。そこには穢れを知らない純粋な“正義”が、映し出されていた。私は彼の覚悟をはっきりとこの目で見た。
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