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その単語に心あたりは無かった。
「…何ですかそれ?わかんないです」
「名前までは知らないか。何か目立つ物でもいい、見たのか?」
目立つ物…。
怒りの形相でこちらを睨んできた白衣の男が思い浮かんだ。
印象的だった物といえば、あの先生くらいだ。
「そう言えば、本校舎に入った時に、白衣を着た先生が校長と一緒に事情聴取を受けていたんですけど、先生はその人について何か知ってますか?」
高橋の眉がピクリと動く。
「…白衣を着た先生?」
高橋は俺の話が予想外だったのか少しの間沈黙したが、すぐに口を開く。
「お前が言ってる白衣ってのはこの学校で働いて五年目になる芦原のことだな。あいつは日本の科学の権威で、三年前に一流大学の研究チームに呼ばれて以来一度も学校に来てなかったからな。お前にとって目立つのも当然だ」
高橋はガッカリそうに芦原の事を話す。
その話す様子から、芦原と呼ばれる先生の事が嫌いな様にも見えた。
「あの、6時からバイトあるんでそろそろ帰らせてもらってもいいですか?その芦原って先生以外は特に変わった物なんて無かったんで」
俺はこれ以上話を長引かせないためにも話を終わらせようとする。
また高橋が俺を睨んでくるが、俺は視線を上手く逸らし中庭を見る。
茜色に染まった空に照らされた中庭には、さっきまで木製の椅子に腰かけ話し合っていた女子生徒たち、顧問の話を聞いていたサッカー部員の姿はもう無い。
それどころか、さっきまで廊下を掃除していた生徒、学校内を行き来する先生や生徒の姿も見られない。
さっきまでの騒がしさはまるで嘘だったかの様に、俺と高橋の二人を不気味な静けさが包む。
「!」
長い沈黙を破る様に、俺の上着のポケットが小刻みに震える。
LiNoの通知だ。
ポケットからスマホを取り出すと、通知が32件も届いてた事よりも、自然と時刻に意識が向く。
画面には5時35分と表示されていた。
(まだギリギリ間に合いそうだ)
高橋を見ると、高橋も中庭に顔を向け、意外と時間が経っていた事に気づいたのか目を見開いて驚きの表情をつくっていた。
すると急に高橋は自分の顎下に親指をつけ、考える仕草をする。
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