第二十六話

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 つまり透視能力のことか。私がこの人のために力を使う?あり得ない。若葉社長の負担を減らす理由で捜査中に使うのは大歓迎だが、この人のために使うことだけは絶対にしたくない。  それにこの男は馬鹿だ。透視能力を勘違いしていた。確かにその人が写った写真、個人を特定できる学生証、日記、可愛がっているペット、その他には、生前に使っていた家具、愛用している文房具などがあれば透視は可能だ。  しかし私が視ることが出来るのは、過去の記憶や残留思念だ。つまり透視から読み取るのは、過去の残像であって、未来の予知ではない。この男は後者だと勘違いして、窃盗か強盗か知らないが犯罪に利用しようとしているのだ。  私が彼に賛同する気がないと悟ったのか、高瀬さんは目で”必ず助けます”と訴えた。助けられるか分からないのに、必ずなんて確定した言い方で、強気に出る高瀬さんに救われたような気がした。ほんの少しだけ恐怖心が和らいだからだ。 「く、来るな、来るなあっ!これを見ろ」  彼がそう言いジャケットを脱ぎ捨てると、そこには腹巻のように等間隔に巻き付けられた爆竹が現れた。私はその時に手紙に書かれていた謎の”迎え”という言葉の意味を理解した。彼は無理心中をして私を死後の世界に連れて行くことを指していたのだ。つまり最初から拉致が目的ではなく、私を自爆に巻き込んで殺す気でいた。  ―まずい―  このままでは高瀬さんも爆発に巻き込まれてしまう距離だ。守るためには何とか高瀬さんを諦めさせて、一刻も早くここから遠ざけさせなくてはいけない。なぜなら彼は高瀬さんが来る前に、大量のガソリンをまき散らしていた。その一部は彼自身と私にも浴びせられていた。  ここは地下なので火の気はないが、彼の持参してきた爆竹があった。ここまで用意周到に準備してきた彼のことだ。ライターか何か火を起こせるものを持っていてもおかしくはない。状況から見て明らかに勝機はなかった。 「朝霞さん僕は高瀬です。呼び間違えないでください」  裏切られたという気持ちを滲ませて、悲しく震える声で高瀬さんが言った。なぜだろう。高瀬さんといるとたがが外れやすい。しかし錯乱状態に陥った現場を目撃されたのが、高瀬さんでよかった。柊先輩だと怖がらせてしまうだろう。
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