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洋子は汗ばむ体に力を込めていた。
「あー、もうぇ!なんでなんで出来ないのー!」
その苛立った視線の先にいる青年、優はうんざりしながら何度目かの答えを返す。
「出来やしないよ、こんなこと。わけわからんもう。」
「まだ出来ないの?バカでしょ?」
「おい、その森先生の言い方で言うのやめてくれよ、すつごく腹立つ。」
解説しよう、森先生とは改心塾という進学率80%を誇る気鋭の塾における、所謂濃いキャラクターを押し出した講師なのだ。
「こんなの森先生だって教えようがないよ。」
「なに?あたしのレクチャーにご不満かしら?若くて可愛くて美人の私のマンツーマンよ?しかもただ!有り得ないわ!有り得ないのよ?わかる?」
「とは言われても、なぁ。」
確かに洋子は黙っていれば美人だ。
それは否定できない。面倒になりそうだから、間違っても当人に言わないが。
で、その洋子を苛立たせている、文明文化に染まった感覚を野性というか地球の一部だった頃の感覚に戻すという作業、これは難題だと思う。
感覚問題となると掴みようがないし、訓練するものでもない。となるとどうすればいいのかやりようがわからず四苦八苦している。
当の洋子もどうして出来るのかと問うと当たり前としか返さない、答えようがないことなのだろう。普段呼吸すること、歩くこと、物を見ることを意識してやっているか?それは無意識に脳や神経が行っているもので、意識的にしていることと同時に行われることだから説明にならない、そういうことだと。
「だったらなんで出来る人と出来ない人がいるんだ?」
「わかんないわよ、特殊でもなんでもないんだから。」
「居るけど気付かれない、急に現れたり消えたりするように見えるなんて特殊もいいとこだろ?」
「う~ん、それは分かりやすく見せたものであって、あくまで副次的なことなのよ。自然の一部、星の子供たちと同等だってことを思い出すのが本筋でさ。」
「食物連鎖の頂点が思い上がりってことだろ?そんなもの普段の生活でいちいち気に止めてないし、そこらの雑草に自慢して回ったりなんて誰もしないぞ。」
「そうなんだけど~、あーもう!」
「おいおい、叫ぶなよ。壁薄いんだから周りに聞こえるだろ。なに言われるかわからないんだぞ。」
よくよく考えたら非常事態なのだ。まさか自分の部屋でよく知りもしない女子と二人っきりなんて。
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