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その日は雨で私は公園の中にある屋根付きのベンチに座っていた。
お兄さんは自転車のかごに被せたビニールの雨水を飛ばしながらやってきた。
お兄さんはベンチの所に来ると、ビニールを外し、紙芝居の準備を始めた。
真っ黒なドレスに身を包み、悲しげな表情をする少女が表紙となったその紙芝居の題は「黒鳥の湖」だった--
紺碧の空の下、高く舞う少女は名をオディールといった。
オディールは魔界一美しく、舞いで彼女の右に出る者はいない。
だが彼女が陽の下を歩くことは許されない。
何故なら彼女はオデット姫の誕生と同時に産まれたもう一人の「オデット」だったから。
この世で人が生まれる時、必ず魔界にも一人生まれる。
この世に生まれた者を「光」とするならば、魔界に生まれた者は「影」。
「影」として生まれた者は、「光」と運命を交わらせてはいけない--
それが魔界の掟であり、皆、忠実に守っていた。
だがケルベロスが居眠りをした隙にオディールはこの世に出てしまう。
色に溢れたこの世に目を輝かせ、舞うオディールは王子と遭遇する。
二人は目が合った瞬間、恋に落ちた。
だが二人の関係を知った魔王が二人の記憶を消した。
二人は互いが抱いた想いも笑い合った時間も全て忘れ、生きていく。
湖が二人の運命の糸を再び手繰り寄せるその時まで--
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