Act 1 黒鳥の湖

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そこまで話すと、お兄さんは表紙の絵を前面に出し、紙芝居を片付け始めた。 私は目をぱちくりして、お兄さんに尋ねる。 「ねぇ、もう終わり? いつもはおしまいまでお話しするでしょう? どうしてもうやめちゃうの?」 お兄さんは口角を上げ、笑ってみせた。 でもその笑顔は悲しげで、青い瞳は少し潤んでいた。 彼は深く息を吐き、出来るだけ普通の声色で語りだす。 「......ごめんね。 この続きは未だ描いてないんだ。 多分......これから先もずっと描けない。 このお話の続きは里穂(りほ)ちゃんが考えて。 今日の紙芝居あげるから-- そしていつか会える日が来たら、お兄さんに続き聞かせて」 「そんなの嫌だよ!ずっとお話聞かせてよ!!」 地団駄踏んで泣きわめく私の頭をお兄さんは撫でる。 お兄さんの手が髪に触れ、驚いた私は思わず泣くのをやめ、お兄さんを見た。 お兄さんは目を細め、優しく笑う。 「大丈夫。また会える。 それにどんな悪人でも、死んじゃう時には泣ける里穂ちゃんなら、皆が幸せになれる終わりを頑張って考えられるはずだよ...... じゃあ、またね」 お兄さんは紙芝居を抱え、立ち尽くす私を一人残し、自転車を走らせる。 その後、私がお兄さんと会うことはなかった。 お兄さんの名前も知らない私は、捜すあてもなく、17歳になるまでの日々を過ごした。 私はお兄さんからもらった紙芝居の終わりをやっと描き終えた。 ......だから私は知りたい お兄さん、貴方の物語の続きを-- もし再び運命を手繰り寄せられるのなら、 私は貴方に会いたい--
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