1章

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結局俺が公園に着いたのは5時15分だった。 完全なる遅刻。息を切らしながら公園を見回す。 ベンチの上で眠っている人を見つける。結城だ。 「結城。」 声をかけると、ゆっくりと目を開ける。そして一言。 「遅い。」 不機嫌そうに起き上がり、大きなあくびをしてから足元のギターを手に取る。 「ごめん。言い訳になるけどこれでも走った。」 「奏汰は鈍足だからなぁ・・・。まぁ急に呼び出したのはこっちだけどね。」 そう言ってけらけらと笑う。そこで俺は結城の額が切れていることに気づく。 慌ててハンカチを取り出す俺に結城は目をきょとんとさせる。 「結城・・・どっかで転んだ?」 結城の額をハンカチで押さえながら俺は尋ねる。 「あぁ、そういえばさっきジャングルジムで頭ぶつけちゃった。アハハ」 「頼むから15歳がジャングルジムで遊ばないでくれよ・・・。」 傷口からは今も出血していて、痛々しい。 「万が一顔に傷跡でも残ったらどうすんだよ。」 「そのときはそのときだよ。のーぷろぶれむ!あ、でも嫁にいけない~!」 「いいからじっとしてろって。」 俺は結城の額に慎重に絆創膏を貼る。 「よし。」 「ありがと。お礼に一曲歌うよ。」 「それ、お前が歌いたかっただけじゃ・・・」 俺の声は結城の奏でるギターにかき消される。 空気が変わる。結城の表情が変わる。つい、見惚れる。 もはや額の絆創膏など気にならない。
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