2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
サインをピッチャーに向かって出す。 ピッチャーは少し戸惑いの表情を浮かべながらも首を縦に振りセットに入る。 右足を上げたピッチャーから放たれたボールは内角に構えられた俺のミットよりも真ん中に入ってきた。 バッターはそれを逃さずに振りきると打球は左中間を深々と破っていき、ピッチャーは呆然とした表情で打球の行方を見つめていた。 「あそこでいきなり初球から内角に投げさせるとか意味分かんねえわ」 練習後に一年生ピッチャーの石崎が俺に視線をチラッと向けながらそう言い放った。 「まぁまぁ落ち着けって。今日のは実戦練習だったんだから。ましてや相手はレギュラーの先輩なんだから打たれてもしょうがないって」 外野手の谷口がこちらを見やりながら石崎を宥める。 新入生が入部してから間もない5月、公立高校の野球部で部員の数も多くないという状況から、一年生でも実戦の練習や練習試合に参加することも増えてきた。 そんな中で行われた実戦練習でバッテリーを組んだ石崎は、球威や球速こそないもののコントロールがいい投手という印象があった。 だから一死一、二塁というケースバッティングの練習で、打席に立った3年生の田辺先輩に対して初球から強気に内角を要求したのだが、それがどうも石崎には気にくわなかったらしい。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!