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「マジで引き受けるの?あんたさ、どんなドMな訳?
ほんと、馬鹿だわ、馬鹿。つける薬もないやつね。」
繁華街にある、観光名所にもなっている電波塔の下に位置するビアガーデンで、サエはグビグビと喉を鳴らして生ビールを飲み下した後に、シオリに向かってそう言った。
口の回りには白い泡がふわふわと乗っており、大ジョッキにはしっかりとルージュの跡が残っていた。
ちびちびとハイボールのグラスを舐めるように飲みながら、己を睨む相手から視線を外すと、テーブルの上にあるサラダのオリーブを箸先で転がす。
サエは人差し指の付け根で口元を拭うと、銀に光るシガーケースから一本取りだし、火を付けていた。
「引き受けた以上は、ちゃんとやるけどさ」
そう言って、後頭部できっちりとまとめていた髪を下ろすと、サエは本当に綺麗だ。
というより、魅惑的ーー女のシオリから見ても、とてもセクシーだった。
「ねー、職場では下ろさないの?」
シオリの的はずれな質問に、再度眼鏡の奥の目が細くなり、眉間にシワが寄った。
何を言う訳でもなかったが、吐き出した煙が、あからさまにシオリの方に流れてきたのは、間違いなくわざとだろう。
「ナツミとリョウヘイくんが、ね。
ーー私は、シオリとよりは安心だけど」
「何よ。別れた時も言ってたけどさ。
そんなに私ってひどい女かなぁ…」
オリーブを口にすると、酸味とも塩味ともつかない風味が広がる。
その間に、サエは二杯目の珍しい焼酎のロックを頼み終えていた。
新しいグラスが運ばれるまで、二人とも黙ったままだった。たまにサエが口を開いたかと思うと、何も言わずに、また黙る。
焼酎のグラスを受け取ったサエは、一つため息をつき、おもむろに話し始めた。
「ーーシオリは、リョウヘイくんのこと、認めてなかったでしょ」
その言葉にムッとし、反論のために開いた口は、しかし何も言い返すことができなかった。
「ダメなところもあったとは、思う。リョウヘイくん、頼りなかったし。
ーでもさ、今がダメだから、先もダメじゃないじゃない。
シオリは、こうって決めたらそれがずっと真実だから。
リョウヘイくんのいらない面倒まで見てた気がする」
サエは、本当によく見ていたんだーー
そう気がついただけだった。
自分ですら忘れていた、記憶の隅に追いやっていた、リョウヘイとの思い出。
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