0人が本棚に入れています
本棚に追加
ビールをグラスに移すこともなく、缶にそのまま口を付け、グビッと飲み下す。独特の苦みが口に広がり、強い炭酸がノドからせり上がる。
一人きりなのに、ついガマンして、かえって気分が悪くなった。
気分が悪いのは、ビールのせいだけではないかもしれないがーー
「二年ぶり、か…」
片手に持った封筒の表書きには、シオリの本名ー夫馬シオリ様ーの文字が大きく書かれ、その隅に、高校時代の同級生の名前が二つ、仲良く並んでいた。
ー松元リョウヘイ
ー片瀬ナツミ
きっと、ナツミが書いたのだろう。彼女の屈託のなさを表すような、ふんわりと丸い文字は、高校の頃によく見た気がする。
『あのね、シオリには、言っておこうと思って…』
『私、結婚するの』
『リョウくん…。リョウヘイくん。覚えてる、よね?』
『シオリ、もしよかったら、スピーチとか頼めないかなぁ』
忘れる訳がない。
けれど、その神経が信じられない。
普通、頼む?ーー元彼女に、スピーチなんて。
いくら、ナツミとは小学校からの仲で、大学まで同じと言えど。
それでも引き受けてしまったのは、未練があると、思われたくないからなのかー
『いいけど、…私なんかで、いいの?大学の時の友達とか』
『松元くんはなんてーー。賛成してるなら、じゃあ…。あ、サエも呼ぶなら、一緒でいい?』
ナツミから連絡がいったのか、その三日後に、サエに呼び出され、二時間ほど“飲み会”という名で説教をされたのが、一月ほど前のことだ。
最初のコメントを投稿しよう!