張角挙兵と漢の衰退

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劉侑はこの時代には珍しい、宦官の賄賂を嫌い適切な監査役をする監査官だった。 監査官と言っても元々は漢の中央政治を任されていた政治家で、農民のための不正の無い政治を大事にし、全国の農民・政治家に聡明だとして名をよく知られたので、ある時十常侍に疎まれた。 ただ劉侑は宦官を弾劾するような声明を出さず、人と話しをするときも宦官の悪口を言わなかったので、劉侑を監査官として中央政治から遠ざける以外に十常侍は劉侑に手をつけられずいたのである。 だが、いつか宦官の失政を正したいという望みをもっていた劉侑もそれは同じで、賄賂政治により段々と国が衰退していくのを劉侑は悔しい思いをして黙って見続けてきた。 そんな時、劉侑が一番憂いていた事が発生した。 農民の反乱、すなわち黄巾の乱である。 劉侑は、後になって十常侍の行いを黙って見過ごした自分に怒りを覚え、後悔もした。 そして、この黄巾の乱が十常侍を弾劾するまたと無いチャンスであることにも気づいた。 自分の監査官という立場を利用し、監査する先々で反乱鎮圧に向かう全国の諸侯に働きかければ、十常侍弾劾の強力な協力者を得られるのではないかと。 ただ、働きかける際には信頼できる相手を選ぶ必要があり、偶然にも友人の盧植が崋北の総指揮になったと聞いて、監査官として北平まで来た。 そして今、友人の盧植に頭を下げ続ける行為には、黄巾軍の攻勢を防ぎ国難を避けた事への言葉では言い切れない程の感謝の意が込められていた。 劉侑は暫くの間頭を下げ続けていたが、盧植は一度も目を剃らさず見届けた。 盧植は劉侑の行為に困惑も動揺もしなかった。 劉侑と10年もの間政治を語り合い、十常侍に刃向かい崋北に追放された過去がある盧植は、劉侑のこの頭を下げる行為の意味を理解していたのである。 劉侑は下げていた頭を上げると、再び椅子に座る。 「酒はいかがな?今日は監査官の仕事は忘れて話でもいたそう。都の話でもしていただけないか?」 盧植は表情を和らげながら、再び劉侑に酒を勧める。 「そうだな。酒を頂こう。それがしも崋北の話が聞きたい」 劉侑は今度は酒を断らず、監査官の役目を忘れて一日中盧植と言葉を交わした。
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