時代の変わり目

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時代の変わり目

翌日の早朝、役所の中の一室で劉ヨウは目を覚ました。 おぼつかない手取りで上体だけ起き上がると、目の前に上半身裸のはしたない格好で壁に寄りかかりながら寝ている男が二人。 二人のそばには床に無造作に置かれた二人分の鎧があった。 この痩せ細った小柄な体格からは鎧を着た2人の姿などとても想像できないが、二人は慮植の護衛だった。 ズキズキと痛む劉ヨウの頭の中では、酒に酔った慮植に彼らが呼び出され 無理矢理酒を呑まされる姿が思い起こされる。 「このご時世で酒を飲むなんて、なんて無防備な男なんだ、慮植」 独り言に自戒も込めて、聞こえているはずもない慮植に皮肉を言う。 そして、その場に見あたらない慮植を探しに行こうとした時であった。 「伝令!南皮黄巾党張燕の軍勢が左北平に攻めてきたもようです!」 馬に乗った伝令が息を切らせながら大事を伝える。 城内にはいきなり緊張が走る。さっきまで寝ていた護衛の2人も酔いが醒めたのか飛び起きて臨戦態勢をとっていた。 「あの…慮都督は今どこに」 「それがわしにもわからないのだ。昨日の夜まではここにいたんだが」 「心配は要らんよ劉監視」 声の方を向くと、白馬に跨り短剣を装備し小弓を手に持った慮都督の姿があった。そしてその後ろには、姿形に特徴のある3人の若者が馬に跨り50人もいないほどの小勢を率い控えていた。その3人に面識はなかった。おそらく慮植の名声に惹かれて集まったものたちなのだろう。だが、彼らからは、そこらの雑兵の長とは全く違う気品や威厳のようなものが感じられた。 「劉殿も感じられたであろう?この若者たちの常人ならぬ気配。これからの天下は、彼らが引っ張っていくことになるよ」 そう劉監視に伝えると、慮植は彼らを率いて伝令がきた方向を目指し、一直線に白馬で突撃していった。 「これからの天下は、彼らが引っ張っていく、か」 そう呟きながら劉は身支度をすませると馬車に乗り、洛陽へ慮都督の監視結果を報告すべく駆け出すのであった。
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