“つのなし”が神様を嫁にした話。

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花が咲いたそれならば、誰かが神から祝福か。 けれどその儀はとうの昔にすませたものばかり。 受けていないのは“つのなし”だけ。 守り神様が呼んだのは、“つのなし”なのだと皆思う。 神に呼ばれる名誉とて、百々歳越えても“つのなし”に何故に今更、反対の声は強く多かった。 もしも贄の所望なら、“つのなし”などでは罰当たり。神の怒りを買うのでは、そんな声もまで有る程に。 けれどけれど里長は、 「それが神のご意志なら、聞き従うも里の努め」 言いくるめると、儀式の為に“つのなし”をより鍛えてしごいた。 誰より愛した妻の為に、誰より愛しい我が子の為に、注いだ厳しさが愛だった。 角がなくても、殆んどが語らずとも、変わらぬ面だとしても、父にとってはかけがえない大切で可愛い我が子だった。 少しでも厳しくは少しでも子の先に役立つように、しごきあげたのは自分が亡い後でも庇いだてが無くなったとしても困らぬように。 不器用なれど、不恰好なれど、それでも確かに“つのなし”を思う優しい誰かはそこにいた。
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