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まさか自分は、過去に戻ったのか?
そんなことがありえるのだろうか。これは都合の良い夢で、自分はただ夢を夢と思っていないだけなのでは?
赤信号で、自分達は止まった。隣を見る。栞がいる。
コートのポケットに手をいれ、肩を縮こまらせている。
栞は存在している。栞を見れば見るたび現実にいるんだと実感する。栞の細かな息づかい、まばたき、ポケットのなかで動かす手。すべてが新しく見るものだ。自分はこの栞を初めて見たんだ。この状況は夢じゃない。今となりにいる栞は何度も夢でみた栞じゃない。
信号が青に変わった。さみしくなっている緑公園に入る。
「そういえば、今日の宿題、難しいよね」
栞はそう言った。算数プリントのことだ。
自分は「そうだね」とだけいって立ち止まった。栞も同時に立ち止まり、「なに?」と不思議そうにうつむいているこちらを見た。
一つの思考が頭を埋めていた。
この状況は、運命的なチャンスだ。今なら、すべてを知っていて夢の中などではない、現実に過去に戻った自分なら、栞を救うことができる。
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