過去の栞

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夢だということにはすぐに気がついた。 いま、自分は小学四年生の頃に戻って、そしてとなりにいる同じ小学四年生の栞と一緒に下校している。この状況を自分は客観的な自分と、小学生の自分の主観とが混在して実感している。いつものことながら不思議な感覚だ。 冬風が吹いて、自分達の間を冷たく通りすぎていった。栞は白く繊細な手を擦りあわせる。 「もう寒くなってきたね……。キミの家ももうストーブ出したでしょ?」 この質問は今でもはっきりと覚えている。これは栞の自分への他愛もない最後の質問だった。自分は過去にした同じ返事を再び返した。 「いや、まだ。エアコンの暖房で十分」 実はこのときにはもう自宅でもストーブを出していた。しかし、自分はおかしな強がりが湧いてこう言った。 「えー……、そうなの? 私の家はもうとっくに出したのに」 「そんなに寒いかな。外だったらわかるけど家のなかなら」 「うーん。私の家が林の近くだから寒いのかな? すごいよ、強い風が吹いたら、家のまわりにビューって音がなるんだよ」 病院の横を通り、赤信号で止まる。信号の先には緑公園が見える。自分と栞の家はそこを抜けた先だ。 となりを見る。栞は手に息をはいている。白い息と白い手が重なった。
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