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栞は「ありがとう」と微笑んだ。
また、冬風が吹いた。栞はふたたび手をこすり、そして今度はコルクボタンのコートのポケットに手を入れた。
緑公園はいまは名ばかりで、公園の木々はさみしく枯れはじめていた。ベンチの後ろにある銀杏の葉は茶色くなって落葉になり微風にのって、合わさり音をならしていた。
公園を抜け、その脇の緩やかな坂道をのぼる。
坂道の途中にある分かれ道で、自分達は家路が別れる。自分は住宅街へ、栞は坂道をのぼる閑散とした林道へすすむ。そして、その林道で栞は殺されるのだ。
今の自分なら、それを知っている自分なら栞を救うことができる。その考えは分かれ道に近づくにつれて強くなっていった。そのための様々な案もそのとき考えていた。
しかしいざ、分かれ道についたとき、自分はなにも行動に移すことができなかった。
できたことといえば「また明日ね」とポケットからだした右手でちいさく手をふる栞に、「また明日」ということだけだった。また主観的な自分が動いたのだ。
栞は、林道へとすこし歩いたあと、ふりかえってもう一度手をふったあと、そのまま進んでいった。
自分はその姿を見て、自分の家路に向かった。
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