過去の栞

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……。 タバコから、灰が畳に落ちた。 それに目を落として、数秒眺めたあと、ハッとして慌ててそばにあったティッシュで拭った。しかし畳には焦げ目がついてしまった。 また一つ、畳に焦げあとが増えてしまった。 タバコを置時計の横にある灰皿で潰すように消した。すべてはタバコが悪いんだと憎たらしくなった。 そして立ち上がり、再び引き出しを開けて、スクラップブックを取りだす。 最初から読み始める。記事と過去を照らし合わせながら、探すように読む。 なにか相違点がないかと探しているわけではない。期待はさっき消えた。それじゃあ自分はなにを探しているのか。それは昔からずっと考えている。一枚一枚一文字も漏らさず読みすすめる。 今の自分の頭には栞が想像で現れている。しかしその栞は自分に笑いかけてはいるものの、声はなく、自分の名前を呼んではくれない。それは栞が自分の名前をどういった声で呼んでいたか忘れたからだ。 昔、栞は名前を呼んでいた。自分はそれを聞いていた。だけど栞の声は思い出せない。 思い出すのは、栞が林道へと歩いていく後ろ姿。そして見えなくなる姿だ。
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