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バイトから帰ってきたときには、十一時だった。いつもと変わらない帰宅時間だ。
バイト先から持ってきた廃棄の弁当の入った袋を置いて、タバコに火をつけた。壁に背中を預けて吸う。
よくタバコは身体に悪いというが、精神にはとても良いものだと自分は思う。肺に入っていく煙が脳にまで漂って、色々なものを忘れさせてくれるからだ。
しかし、そうして忘れているときこそ一番忘れているものを意識してしまう。煙でぼかしてみてもどうしても栞が煙のむこうで見え隠れしている。栞を忘れようと忘れようと意識するたび、煙に隠れている栞の印象はどんどん強くなる。
タバコの灰が落ちた。
灰が畳を音もなく焦がすのを見届けてから、しまったと急いで拭うが痕が残った。
タバコを灰皿で押し消した。まただ、と思うと、今朝のことを思い出した。そして、頭に浮かびだすのは、罪、罪、罪。
冷蔵庫から発泡酒をとりだして、一気に飲めるだけ飲む。苦しくなって飲み口から口を離すと、しゃっくりがでた。中身の残った発泡酒を台所に流して、自分は布団に倒れこんだ。
目を閉じると、酒が急速に身体を廻って自分が酔いはじめるのを感じた。すべてどうでもいいと思えた。
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