芋虫男と小学生

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小学生の世界は弱肉強食なのです。 と島田由美子(シマタ、ユミコ)はランドセルをからいなおしながら内心でそう呟いた。子供の世界というのは大人が思っている以上に複雑だ。仲間外れもあるし、イジメもある。ちょっとしたことで喧嘩してしまう、先生に告げ口、陰口をしようものならあっという間にチクリ魔に祭り上げられる。それが小学生の世界なのだ。 島田由美子は『ある事情』により、小学校入学が三ヶ月ほど遅れて入学した一年生で、もともと人見知りする性格の彼女が一週間ほど、学校に通いこう思った。弱肉強食。どうして小学一年生の彼女が弱肉強食だなんて、小難しい言葉を知っているかというと、 「しょ、所詮、この世は弱肉強食、弱ければ死に強ければ生きるでしたか、まったくそのとおりでした」 某漫画の悪役の台詞を思い返しながら島田由美子はコクコクと頷く。漫画が好きな彼女はよくそういったキャラクターの台詞や行動に感化されやすい、それも少年漫画の悪役が多い。どうして悪役が多いのかは彼女もよくわかっていないが、主役よりも、悪役が好きなのは一瞬でも輝ける儚さが彼女の心を鷲掴みにしたのかもしれない。花火のような儚さだ。そして、今日も島田由美子は生き残るために行動する。強ければ生きて、弱ければ死ぬ、死にたくない。 「ですが、こうして私も小学校に通うわけなのですから、お友達というものがほしいです」 彼女の意志とは裏腹に、一週間ほど頑張っているが結果は芳しくない。子供は大人よりも横の繋がりを重視する。子供達を地球人とするなら、島田由美子は宇宙人だ。生態系そのものが違うんだからギクシャクとした軋轢があっても、近寄ることはできない。 「一人はやっぱり寂しいです」 島田由美子はずっと一人だった。真っ白な壁、天井の部屋に置かれたベッド、よくわならない機械の数々に囲まれて彼女は今までの人生を過ごしてきた。簡単に言えば病気だった。別に島田由美子にはそのことを言ったわけじゃないが、気をきかせた担任教師が事前に生徒達にそのことを告知していたためだけれど、島田由美子はそのことを知らない。 やっと病室から出て、学校に通えるようになったのにこれでは今も昔も変わっていない。焦りもあるがそれと同じくらいに寂しさもあった。 母親が持ってきてくれた少年漫画には女の子を救ってくれるヒーローがいるのなら、自分にもいてもいいと思う反面、チクリと胸を刺す。
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