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「私が悪役だからでしょうか」
もちろん、彼女には悪いことをしたつもりはいっさいないけれど、小学生という幼さと少年漫画ばかり読んできた彼女の鍛えられた妄想力は斜めの方向に進んでいく。
「も、もしかしたら私は悪の組織に改造された怪人で、正義の味方の彼らとはいつか戦わなければならない運命にある」
だから、彼らは自分に対して、よそよそしい態度なのだ。そうに違いないと思いながら島田由美子は自分の両手をグッ、グッと握りしめ、
「ロッ、ロケットパンチとか出るのでしょうか」
微妙に悪役のモデルが古い島田由美子だった。
「も、もしくは目から光線が、シュワッチ」
ウルトラマンの真似をしながらうろ覚えの物真似をする島田由美子は気分がよくなってきたのか、どんどんポーズを決めていく。好きなキャラクターの物真似や台詞と一人でやっていき、唐突に恥ずかしさがやってきてそさくさとその場から立ち去った。
「ただいま……」と新居の家の玄関を開いて島田由美子は部屋に入っていく。学校に通う時間を少しでも短くするための新しく購入した家はまだ、真新しくて島田由美子には、他人の家に勝手に入っていく気分で慣れない。母親も父親も仕事に行っているためこの家には彼女だけで、家政婦がいるが今日は来ない。
この家には島田由美子だけ、友達ができれば招くこともできるだろうが友達がいないためそれもできない。本棚に並んだ少年漫画の数々だって紹介したいのに、
「に、日記を書きましょう。はい、書きましょう」
と日課としている日記を開いてみるが、ここ数日は本当に味気ないものばかりだもっと賑やかになればいいと思うが妙案を思いつかない。
十分ほど、考えて、何も思いつかずに鉛筆をその場に転がした。漫画を読む気分にもなれずギュッと目を閉じた。うとうとと微睡んでいると、島田由美子は眠りに落ちていき、母親の呼びかけで目を覚ました。
「寝てたのね。気分は? 胸は苦しくない?」
「ないよ。元気、元気」
と両手をギュッと握りポーズをとる、母親もそれを見て微笑むが、それが空元気だということは明らかだったが、そこで追求することはしない。急かしてもどうにもならないとわかっているからだ。
「急がなくていいからね」
とだけ言う母親に、うんとだけ頷いた。
母親に心配させていることに幼いながらも胸がチクリと痛んだ。どうにかしなければと焦りもあった。
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