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気合いでできるなら、こんな不審者バリバリなおっちゃんに話しかけていない、いや、悩みがなくてもこんなおっちゃんに話しかけたりしないだろうが、ずっと病室暮らしだった彼女にはそういった免疫がない。
「やろ? そう思うやろ? おっちゃんだってなもっとダンディーなおっちゃんになりたいんよ」
「なれないんだね」
「なんだろうね。子供って残酷、ここはお世辞でもいいからダンディーなおじ様って言ってな。カッコイいとか言うてよ」
「おじ様、さっきお世辞はいらんよって言ってたけど?」
少し前に芋虫男が言ったことを島田由美子は思い返しながら言ったのだけれど、予想していた反応とは違うことに不思議そうだった。彼女の遠慮のない発言が原因なんだが、そこに気がついてない。
「そんなんちょっとカッコっつけてただけやろ」
もぞもぞと身体を動かしながら芋虫男が動かし、顔の部分をちょっと隠した。照れ隠しだった。
「おっちゃんちょっと寝るわ。寝袋だけに」
「出たいんじゃなかったの?」
「なんかなー、おっちゃん、ちょっとここが心地よくなってきてな、おっちゃんここが棺桶になるかもしれんなー」
「おじ様……」
一瞬、見つめた後、そっと立ち上がり島田由美子は言った。
「風邪、引かないようにね」
そのままスタスタと立ち去っていく、後ろ髪を引かれることなく迷いのない足取りにガバッと起き上がった芋虫男。
「なんでじゃ、嬢ちゃん、嬢ちゃん!! もうちょっと他人に興味もってもよくない? おっちゃんは寂しいと死んじゃう生き物なんだよ。なぁ!!」
まるでうさぎのようなことを言いながら、芋虫男はずるずると身体を動かして移動する。その動きはどことなく尺取り虫に似ていた。
「おっちゃんかてな、一生懸命、生きてんよ。若い女の子に避けられたって、生意気な部下にタメ口きかれたって、嫌みな上司にぐちぐち自慢話を聞かされたってなぁ、おっちゃんは生きてんよ。だから嬢ちゃんだけでもおっちゃんの話し相手になって、友達おらんもん、孤独やもん。一緒におってーな」
と恥も外聞もなく、芋虫男は叫んだ。その情けなさに同情したわけじゃないだろうが、島田由美子は足を止めた。
「おじ様って子供みたいだね」
と言ってぺろっと舌を出した。別に彼女は芋虫男に悪い印象は特になくてちょっとした悪戯だった。
「やかましや、おっちゃんだってな子供になりたいんじゃ」
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