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通用せん、そうして上手くいかないことを言い訳にしてるうちは友達なんぞできんな」
ムーッとほっぺを膨らませる島田由美子を無視して芋虫男は言う。
「ああしてくれるだろう、こうしてくれるだろうと受け身の姿勢でいるうちはきっと上手くいかん、むしろ、そっちから踏み込むべきじゃ」
「でも、」
「でもも、へったくれもないわ、あれやぞ、少年漫画ではぶられたからってそこで諦めたらそこでおしまいかもしれんけど、自分はこんなのが好きだけど、そっちは何が好きなのって聞いてみ」
それで避けられたってもいい、ただ、そこで距離をおくから変なわだかまりを生むのだと芋虫男は言う。
「それが不安なら、大きな声で挨拶してみ、そこでウジウジ思い悩むから何も起こらんのじゃ踏み出せ。な? 」
と言うと芋虫男はむくりと身体を起こしてもぞもぞと動く。
「おじ様?」
「おっちゃん、もう帰るわ、嬢ちゃんも早く帰り、お母さん心配かけるはけにはいかんからな」
もぞもぞと尺取り虫のように動く芋虫男が去っていく。時刻は夕暮れ時で小学生が一人で出歩くにはもう遅い時間帯だ。
「嬢ちゃん、挨拶や、まずは腹のそこから大きな声で挨拶してみ」
ともう一度、もぞもぞと動きながら芋虫男は言った。
「う、うん、おじ様……さよなら!!」
と腹の底から大きな声で島田由美子は別れの挨拶をした。それに芋虫男はその意気だと言わんばかりにニッと笑い。
「ああ、嬢ちゃん、さよならな」
と彼も大きな声で返してくれた。島田由美子はちょっと晴れやかな気持ちで家に帰り日記に今日の出来事を書き、いつも以上にご飯を食べて母親を驚かした。
入院していたことを言い訳にはしい、少年漫画だって好きでいる。子供の世界は弱肉強食でナイフで切られるように痛い思いをすることもあるだろう、告げ口、陰口だってたくさんあるかもしれないけれど、そんなことを気にしない、自分は自分なのだと島田由美子は言い聞かせランドセルをからいなおして、お腹いっぱいに息を吸い込むと、
「おはよーみんな!!」
と大きな声で挨拶した。
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