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「亜由子、お待たせ」  夏も最後に太陽を輝かせようとしていた土曜日。  わたしの今の彼氏様、中田さんがいつもより少しだけオシャレをして部屋にやって来た。  そしてその後ろには、いつも隙が無い斑目さんが眠そうに目を擦っていた。  もう夕方なのに。 「ううん。待ってないよ。バッグ持ってくる。てゆーか電話くれれば下に降りて行ったのに」 「あ、言われてみればそうだな」  中田さんは額に手を当てて爽やかに笑う。  わたしはこの笑顔が大好き。  出会った頃から変わらない。  初めて会った時にわたしはこの笑顔にノックアウトされたの。  大した男たちがいない友達の合コンで、少しだけ遅れてやって来た中田さん。  みんなに謝りながら、全然悪びれていない満面の笑みだった。  わたしは今まで小さい時に死んだお父さんの影を追って、大柄な、少し粗暴な、世理ちゃん曰く熊みたいな男の人ばかりと付き合っていた。  側にいると安心するし、抱きしめられると身体全部が包まれて、愛されてるって実感する。  冷静にわたしを分析した世理ちゃんは、父性に飢えていると結論付けた。  そんなわたしがこのたび恋に落ちたのは、お父さんの影から遠く離れた中田さん。  わたしはきっと、これが初めての恋なんだと思う。
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